本稿では、Paul Foster Caseの論じた"The Cube of Space"(以下、COSとする。)を論ずる。
宇宙を立方体として捉える考え方は、Caseのみが主張するものではないが、本稿では他説について論じない。また、一般的な立方体のオカルトにおける意味についても論じない。立方体のオカルト的意義については、各自、ピタゴラス学派やメイソン系の書籍にあたってほしい。
本稿作成にあたって、参照できたCOSについて言及している公刊書籍は、以下の6点である。
なお、下記の書籍のうちCOSを専門に扱っているのは、Townley, Hulse及びNurの4冊のみである。
Paul Foster Case, The Tarot: A Key to the Wisdom of the Ages (1947)
Emily Peach, Tarot for Tomorrow: An Advanced Handbook of Tarot Prediction (1988)
Kevin Townley, The Cube of Space: Container of Creation (1993)
Kevin Townley, Meditations on the Cube of Space (2003)
David Allen Hulse, New Dimensions fo the Cube of Space (2000)
Joy Nur, The Cube of Space Workbook (2012)
CaseによるThe Cube of Spaceという論考があるというが、確認できていない。現在確認できるCaseによるCOSへの言及は、いずれも散発的なものである。
この資料の少なさは、この資料過多の現代において、異常に思われる。ただ、資料の少なさに関しては、COSが、マイナーな分野であり、かつ、難解な内容を含むことから、さほど意外ではない。
しかし、Caseによるまとまった形での論考の発表がないことは、Caseがその重要性をたびたび示唆していることからすれば、やはり意外である。Caseは、学習効果を考えて、あえて、まとめたテキストを作らず、学び手による研究を促しているのかもしれない。Caseは、COSの研究のために必要なTarotの使い方とその練習、参考となる解釈の具体例を著作に残している。
なお、上記書籍以外に、国書刊行会から翻訳が出る予定のRobert WrangのThe Qabalistic Tarot: A TextBook of Mystical PhilosophyにもCOSの記載がある。ただし、そこで紹介されたCubeの図版は、WWW版に従ったものであるので、本稿が対象とするCaseのCOSには直接参考にはならない。
CaseのCOSは、形成の書をより作られている。ケースによる説明が公刊書籍で発見できるものは、The Tarot: A Key to the Wisdom of the Ages(1947)の67頁以下である。そこでは、
"The Six faces of this cube and interior center are assigned to the seven double letters of the alphabet. The three interior co-ordinates correspond to the three mother letters. The twelve boundary lines represent the twelve simple letters."と記述し、その後、図版とともに配置を紹介している。
COSが形成の書より作られている事は既に述べたが、このアルファベットと空間の配置は、実は、底本である形成の書自体に、バージョンによって異同がある。この異同は、なかなか興味深い。しかし、ケースによるCOSの考察において、他のバージョンと比較検討することは、余り有意義ではないと思われる。異同については、カプランの形成の書などを当ってもらうこととし、事実の指摘をするにとどめたいと思う。
ここでは、ケースが参照したであろうGDのネタ本・種本の一つ、ウェストコット版の形成の書と上記The Tarotに描写されるケースによる文字の配置を比較して、ケースの特色は何かをみて見よう。
ウェストコットの「形成の書」(以下、Hocuspocus氏の翻訳を利用)の該当箇所を引用すると、以下となる。
"『7』つの複字、ベト、ギメル、ダレト、カフ、ペー、レシュ、そしてタウ……これら『7つの複字』は7つの場所、すなわち『上』、『下』、『東』、『西』、『北』、『南』、そして全てを支えそれらの中心となる『聖なる場所』を示している。"(4:1-2)、"『12の単字』はヘー、ヴァウ、ザイン、ケト、テト、ヨッド、ラメド、ヌン、サメク、アイン、ツァダイ、そしてクォフ……これら『12』のものもまた空間の各方向、すなわち『北東』、『南東』、『東の上方』、『東の下方』、『北の上方』、『北の下方』、『南西』、『北西』、『西の上方』、『西の下方』、『南の上方』、『南の下方』、に割り当てられ、それらは『宇宙』の腕の如きものである。"(5:1)これらをまとめて、ケースの図版と比較すると以下となる(太字は、COSとWWW版との間に異同が認められる箇所)。
記述がない点は、比較対象として取り扱いが難しい。ここでは、比較できるラメドとナンの交換・入れ替えについて考察してみたいと思う。それにより、COSの特徴・性格等について、何かしらの知見が得られると思うからである。
さて、入れ替えが生じた過程では、本来は、@何らかの内容的・主観的な側面からの不都合の存在から、変更が必要になり、Aそれを補強するため、是正する契機・ヒント或いは不都合を意識化する手段として外的な資料を用いられるといった順序で事象は推移したと思われる。
しかし、まずは、ある程度客観的に埋められる点から入っていこう。
この入れ替えを考えるに当たって、参照すべき文献に、Isidor Kalischによる形成の書の翻訳(1877)がある。この翻訳は、Caseが"The True and Invisible Rosicurucian Order"(p.133, 1989)で形成の書の引用に使用しており、彼が何らかの形で参照したことは確実である。そこには、以下のような記述がある。
"BGD KPhRTh..."(4:2)"The seven double consonants are analogous to the six dimensions: height and depth, East and West, North and South, and the holy temple that stands in the centre, which carries them all."(4:4)ここではHVZChTILNSOTzQとの文字の並びは同じであるが、WWW版と比較した場合、記述される方向(辺)の順番にかなりの違いがある。しかし、ここで注目すべきは、南西の辺がナンであり、ケースと同じであることだ。
"The twelve simple consonants HVZChTILNSOTzQ? symbolize also twelve oblique points: east height, north east, east depth, south height, south east, south depth, west height, south west, west depth, north height, north west, north depth"(5:2)
"Seven double : B G D K P R Th, Height, Depth, East, West, North, and South, and the Holy Place in the middle, which sustains them all."(4:4)Case自身の発言は見受けられないが、Caseの配置はStenringの配置と同じである。Stenringの配置がCaseに入れ替えのヒント又は根拠を与えたものと考えられている(Hulse(2000)、P.106、113)。An Intoroduction to the Study of the Tarot(1920)では、COSを論じていないが、WWW版に従って方向配属には触れているので、その後の変更を、その後訳出された、KS版に根拠を求めることは合理的である(A Brief Analysis of the Tarot(1927) については、確認が取れていない。ただし、Hulse(2000,p.107)によれば、COSについて述べられていない。)。
"Twelve simple : H V Z Ch T I L N S O Tz Q, [...]: the Nort-East angle, the South-East angle, the abobe-East angle, the below-East angle, the above-North angle, the below-North angle, the North-West angle, the South-West angle, the above-West angle, the below-West angle, the above-South angle, the below-South angle."(5:2)
方位 | COS | WWW版 | IK版 | KS版 |
---|---|---|---|---|
上下の軸 | アレフ | 不明 | 不明 | 不明 |
東西の軸 | メム | 不明 | 不明 | 不明 |
南北の軸 | シン | 不明 | 不明 | 不明 |
上面 | ベト | ベト | ベト | ベト |
下面 | ギメル | ギメル | ギメル | ギメル |
東面 | ダレス | ダレス | ダレス | ダレス |
西面 | カフ | カフ | カフ | カフ |
北面 | ペー | ペー | ペー | ペー |
南面 | レシュ | レシュ | レシュ | レシュ |
中心点(聖なる神殿) | タウ | タウ | タウ | タウ |
北東の辺 | へー | へー | ヴァウ | へー |
南東の辺 | ヴァウ | ヴァウ | テト | ヴァウ |
東上の辺 | ザイン | ザイン | へー | ザイン |
東下の辺 | ケト | ケト | ザイン | ケト |
北上の辺 | テト | テト | アイン | テト |
北下の辺 | ヨド | ヨド | コフ | ヨド |
南西の辺 | ナン | ラメド | ナン | ナン |
北西の辺 | ラメド | ナン | ツァダイ | ラメド |
西上の辺 | サメク | サメク | ラメド | サメク |
西下の辺 | アイン | アイン | サメク | アイン |
南上の辺 | ツァダイ | ツァダイ | ケト | ツァダイ |
南下の辺 | コフ | コフ | ヨド | コフ |
ケースが何を根拠に現行のCOSの配置にしたのか、それについては、KS版であるというのが、合理的であろう。ケースはどうしてこのような、南西の辺と北西の辺のラメドとナンを交換したのだろうか。それを考察することは、COSの理解に資するものとなろう。
考察に当たっては、一次資料に当たるCaseによるCOSの解釈例を参照するのが第一歩となろうが、ケースのCOSに関する論述は、大部分が会員向けに書かれた教材にある。これから学ぼうとする我々は、自らの思考(思索と瞑想、直観)により、「これだ!」と思う解答を探すことになる。