魔術と心理学


 心理学の詳細については、入門書から専門的論文まで邦語資料も多く容易に入手可能である。したがって、こんな魔術Webページで心理学の訓練を受けたことのない私がとやかく書く必要はない。
 ここでは魔術と関係する範囲で記述する。

 さて、魔術はもともとその性質上「人間」に対する考察、当然に人の「心」の「理」を含む。心理学の定義によるが当然に魔術の範囲に心理学は入っていた。しかし、通常心理学といった場合、西洋の19世紀以降の心理学を我々の間では指す。今はその用法に従う。

 魔術と現代心理学の関係は以外と浅い。ディオン・フォーチュンがフロイトの精神分析を学び持ち込んだ。その後、ユングの分析心理学も持ち込まれた。また、イスラエル・リガルディは哲学者の石で、自身後にライヒ派の治療師となったが、ユングに近い分析を示した(パット・ザレウスキー黄金の夜明けのカバラによると、リガルディは執筆当時エラスムス学報のユング錬金術と心理学を参照していないので独自に類似する考えを持った)。彼の主著の一つ中央の柱の副題は「分析心理学の原理と魔術の基本技法の相関関係(A co-relation of the principle of analytical psychology and the elementary techniques of magic)」であった。
 なお、オカルトと心理学と、魔術から目を広げるとグルジェフの心理学などオカルト学から心理学に採用されたものもある。

 魔術に現代心理学を導入することについては賛否両論がある。どちらの立場に立つにしろ、現代心理学の学説と解釈は私たちが魔術を学ぶ上で無視できない。心理学についてある程度知識を習得する必要があることを前提として、私たち魔術研究者が心理学を学ぶ上での注意点と思うことを記述しようと思う。

 魔術と現代心理学の関係で実際に問題となるのは深層心理学(depth psychology)(別名:無意識の心理学psychology of unconscious)のみであると考えて良い。

 深層心理学では魔術研究者の中では特にフロイトの精神分析学(psychoanalysis)とユングの分析心理学(analytical psychology)が特に重視される。日本国内では分析心理学者の著書が錬金術の資料となっていることと、比較的初期の研究者らがユング派に同調的なSOLや心理占星術を出身母体としていたため分析心理学がほぼ独占的地位を有していると評価しても良い。
 このような独占状況では、他学派の心理学を積極的に支持する事が困難な場合がある。しかし、思想は人から独立して存在しない。心理学の学派も提唱者から独立して存在せず、提唱者の時代や家庭環境といった生い立ちに影響を受けている。個性の影響を受けると言うことは、個性により制限され普遍的な学説になり得ないことを意味する。少なくとも現在まで普遍的な学説は存在しない。私たちは心理学の学派はその提唱者の個性に影響を受けていることを明確に認識する必要がある。
 そこで各心理学派を研究するときは、提唱者達の生い立ちの記述がある入門書を利用するように特に注意するべきである。また、提唱者達が理論を考えた材料と適用場面も理論に関係する。深層心理学は治療の場面で発展したものであるが、提唱者が取り扱った症例にも注意する必要がある。フロイトとユングでは親子関係から接した患者もだいぶ違うのである。

 もっとも実際の魔術と心理学の関係は、欧米の魔術師には心理学の学位を持っているものも入ると聞くが、公刊書籍を見る範囲では心理学用語の借用に留まっているように思われる。特にユングのタイプ論(四つの機能と主機能・劣等機能)が良く引き合いに出されるが、ユングのタイプ論については分析心理学内部でも争いがあることも忘れてはならない。また深層心理学の諸学説については臨床学的に効果に疑問も呈されている。

 魔術実践では、少なくとも実践中は魔術という神話を生きることが要求される。私は神話を生きるという意味でさらに深層心理学という神話を重ね塗りする必要があるのか疑問を感じる。特に深層心理学の用語を使用せずに多くの魔術は説明できるように思われるし、我々の多くが神話を神話として読み解く能力に欠けているとは思われないのでなおさらに疑問を強く感じるのである。


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作成者: JAGD
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