同シリーズのリュック・ブノワ『秘儀伝授:エゾテリスムの世界』とことなり、西洋のエゾテリスムに焦点を絞っている作品である。
どちらかといえば学問的にエゾテリスムをどう他の分野と区別するかに著者の関心があるように感じる。これらは序文において語られている。
著者はエゾテリスムと他の分野との区別の指標として、エゾテリスムの6つの視点を与える(16-25)。即ち四つの基本的要素、コレスポンダンス(照応)、生きている自然、想像力と媒体、変成の体験、二つの副次的要素、和協(コンコルダス)の実践、伝授である。
また、学問的立場で論じようとの考え方から、などではさまざまな用語を明確に使おうとしている点は好感が持てる(33-)。
さて、本文では、西洋エゾテリスムの主要人物・団体と著作などがテンポよく解説されている。西洋のエゾテリスムの歴史と基礎知識を知るよい入門書になっている。原書は1992年だが、訳者はその発行予定であったの第二版の書き込みがある資料を利用している。年代から分かるようにかなりUP-TO-DATEな内容である。黄金の夜明けはもちろんBOTAやOTO、ILについても若干の記述がある。
私はPFCが薔薇十字関係の本で引用していた『聖域の雲』の著者エッカルッハウゼンについて書かれていたり(77-8)、「黄金の夜明け」より広く調べたときに、よく出てくる人物・書名が出ており、「ああ、その本、その人はそう言う背景のある人だったのか」と楽しめた。しかし、初心者の人には、人名と書名、年代の列挙と拒否反応が少し出るかもしれない。しかし、比較的読みやすい作品なので、一読してもらいたい。
加えて、訳者の田中は、よく訳書をさらって注で指摘している。その為、邦書で研究する場合のブックガイドとしてもかなり使用に耐えうると思われる。
難を言えば、「人名などの索引が欲しかったな〜」ぐらいであろう。もっともシリーズの性質上期待し過ぎであろうか。
なお、田中は他にも『カバラ』などわれわれの研究領域に関係する著作を文庫クセジュで訳している。私たちにしては将来に期待を持てる学者であろうか。
私は本書を皆さんの夏の一冊にぜひ強くお勧めする者である。私ならプロベッショナーか二オファイトにこれを読ませるし、以後わが国におけるこの分野の学徒の必読書であろう。
序文 5
第一章 近代エゾテリスム思想の古代と中世における源泉 37
I 十一世紀までの思潮におけるエゾテリスム
II 中世思想におけるエゾテリスム
III イニシエーション的探求とエゾテリスム芸術
第二章 ルネサンス盛期とバロック高揚期におけるエゾテリスム 50
I ユマニスムの発見――「永遠の哲学」
II ドイツの貢献――自然哲学と神智学
III 世界の読解と神話
第三章 啓蒙のかげのエゾテリスム 74
I 神智学の隆盛
II 読解の術から微細流体の術へ
III イニシエーションの世紀
第四章 ロマン主義の知からオキュルティストのプログラムに 94
I 「自然哲学」と一大綜合の時代
II 普遍的伝統とオキュルティスム
III イニシエーション結社と芸術におけるエゾテリスム(一八四八〜一九一四)
第五章 二十世紀のエゾテリスム 118
I 西洋の伝統の流れを汲むグノーシス
II 伝統の十字路にて
III 芸術と人文科学
訳者あとがき 149
文献目録 i