本書は、Christopher McIntosh, The Rosicrucians : The History, Mythology and Rituals of an Occult Order, Thorsons, Wellingborough, revised and expanded edition, 1987の全訳。もともとは1980年Rosy Cross Unveiledの題名で出版された初版の改訂増補第二版。初版からは20年以上たっているが、この手の分野ではまだ新しいといえるでしょう。
訳者あとがきによると著者(1943‐)はイングランド生まれであるが現在はニューヨーク在住とのこと。
次に訳者(1947‐)であるが、私たちにはホールの共訳者、講談社現代新書フリーメイソンの著者として知られている。出版時には名古屋大学総合言語センター助教授で専攻は英文学、西欧神秘
思想。今後、フリーメイソンと薔薇十字研究(特に儀式関係)について訳者がよい本を書くのを私たちとしてはお願いしたいところである。
さて、本書の内容であるが、薔薇十字団を設立の時代的・政治的・精神的背景(グノーシスやヘルメス主義)から、いかにして錬金術が薔薇十字運動で徐々に地位を確保したかや、現代特にアメリカの 薔薇十字運動までを簡潔にまとめた古代から現代の薔薇十字を概説した「唯一」の本です。そして、薔薇十字について日本語で読める最も優れた入門書である。
私たちにとっては「黄金の夜明け教団」に1章を割いている点とアメリカのハイデルなどあまり紹介されない薔薇十字団体の歴史についての記述がある点などが嬉しい。
もっとも、訳書はOTOを「1906年ドイツ人テオドール・ロイス(1855‐1924)によって創設」(p.206)と述べており、カール・ケルナーを初代OHO(事実上のボス)としロイスを二代目とするアメリカのOTO側とは主張を異にしている。もっとも、創設と初代OHOは別物との理解も可能かもしれない。
なお、若干のカタカナ表記が全書と異なるが、全書が概ね英語読みに徹してることからの表記の差異に過ぎない。また、索引や原註/訳註も充実しているし,図版p.265ではウェイトの「薔薇十字教団」の使用したラミナ(ラメン・胸飾)の写真もある。
そして、訳者付論もよい。イェイツの「魔術論」(邦訳があるらしい)や内陣に配った小冊子にも触れている。
内容も難解な言葉遣いが少なく読みやすいし、値段は2,600円で古本屋で買えば高くても1,000円台で買えるので値段的には手頃である。図書館にも結構あるので、興味のある方はもちろんない人も一度読んでみて欲しい。
これを読めば歴史的視野が広がり、オカルティストとして幅と深みが多少でるのではないかと思う。
最後に、本書には「ウェイトの主教団「薔薇十字教団」は、彼の亡くなる一九四二年まで存続した。それは後に、彼の支持者たちのよって復活し、完全にフリーメイソン的に修正されて現代に至っている。本来の「薔薇十字教団」は女性と非フリーメイソン会員にも門戸を開いていた。」(p.174)との記述があるのですが、この復活した団体について知っている方はいらっしゃいますか。急ぎではありませんが、ご存知の方、並びに今後情報を入手された方がいらっしゃいましたらコメントを下さるとおおいに助かります。