R.A.ギルバート 小林等訳
神秘主義
河出書房新社、1996


(2)コメント

 黄金の夜明け歴史研究でおなじみの英国古書店主ギルバートによる神秘学入門書。160ページ余りの大部の書ではないが、要点良く多くの文献を引用しながら分かりやすくまとめている。
 難解なものの多い神秘主義の概説書なかでは読みやすい。
 なお、最近講談社学術文庫から神秘主義(パリンダー)の入門書が一冊出ているが、分量並びに黄金の夜明け繋がりとしてギルバートの本書が私たちには精神的に読みやすいと思われる。
 本書は河出書房新社「聖なる知恵入門のシリーズ」の一冊。

 ところで、魔術をやるのに、何故このような本を読む必要があるのかと考える人も多いと思うが、理由は魔術も広義の神秘主義の一つであることを言うに留めたい。

 さて、本書のえせ神秘主義末尾では、著者は魔術について言及しているが、

本質的に、魔術は目的が神秘主義と異なる。魔術は自己中心的で自分のためのものであり、自己満足のためだけに恍惚状態を求め、他者に仕えるとか、神の意思に従うとかという意図はまったくない。最終目標は自己満足だと自分で認めるのはつらいので、魔術師は自己の仕事を誇大に見せる傾向がある。
(p.109)
との記述などは納得できる(注1)。
 その他にもEvelyn Underhill(注2)による薔薇十字団的アプローチとヘルメス学的アプローチの差異の紹介などは私たちがどのように魔術に取り組むべきかを考える上で大変ためになる。

 ところで、ギルバートは神秘主義の特徴(指標)として他者へ伝えたいとの欲求、道徳的・倫理的義務感が生じることを挙げている。
 その点で自己満足的な魔術は非難されるのだが、東洋では釈尊が悟りを開かれた後、自ら体得した悟りを人に知らせてもどうせ理解できないと考えていたところ、神々がやってきて是非とも世に説いて下さいと懇願し、釈尊がこの懇願をお受けになり伝法を始めたとの著名な伝説がある。
 仏教は信仰か思想か、有神論か無神論かなど争いがあるし、釈尊もけっきょくは他者へ伝法している。しかし、釈尊にみられる上記のような態度・傾向は、東洋人には無意識であれ未だにあると思われる。ギルバートの指標が完全に私達に適用できるかは一考に値する。

 結局、ギルバートはキリスト教圏の西洋人を対象にしている点を重視すれば、非キリスト教圏の東洋人が彼の主張に完全に納得する必要はない(注3)。
 個人レベルでの差異はもちろん、所属文化・人種による無意識レベルでの差異も否定できないからだ。

 しかし、納得する、しないのどちらにしろ内容・値段・分量ともに手ごろなので未読の方には一読を強く勧める。
 但し、参考文献が邦訳書しか載せていないのが入門書として見た場合、大変不満。また、ウェイトの評価が高いことには国書系の文献で学んだ者には注意を要す。

(注1) p.165で「一般に理解されている意味での魔術である。それ以外により霊的な責任がともなうアプローチが存在することも、私はよく知っている。」とのフォローがあるのに注意
(注2) GD入団歴あり。江口「魔術人名録」に名前は出ているがまだアップされていないので詳細不明。彼女のアソシエーションは現存する。リンク集にいれておきました。また、彼女の『神秘主義』は邦訳が出ているも品切れ。
(注3) 多くの魔術書、魔女術書も同じである。特に魔女術・ペイガン系の本は、汎神論・樹霊信仰・精霊信仰・自然崇拝的傾向を色濃く残している日本人に「なんで当たり前、当然の感情・感覚をこんなに強く主張せにゃいかんの?」と理解に苦しむ人がいる本も多いだろう。特に著者が厳格なキリスト教・ユダヤ教徒の家庭で育った場合、この傾向が大きいと感じる。「魔術は趣味」の主張が日本で受け入れられるのも日本の文化風土が作用しているのかもしれない。

(3)目次

 はしがき 4
 序 11
 1 非キリスト教圏の神秘主義 22
 2 西洋の神秘主義 38
 3 神秘主義の復興 61
 4 非宗教的な神秘主義 72
 5 秘伝的神秘主義 86
 6 えせ神秘主義―地獄への道 95
 7 神秘主義の本質 113
 8 我と汝―神秘体験の伝達 133
 9 到達への道 147
 注 160
 参考文献 166
以上
(初出:02/02/14,No.972 )
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作成者: TRK
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