S. L. マグレガー・メイザース著 判田格訳
ヴェールを脱いだカバラ
国書刊行会, 2000


(2) コメント

 言わずと知れたマサースの代表的出版物The Kabbalah Unveiledの邦訳書である。
 黄金の夜明けのカバラ典拠の一つである。
 他にウエイトの聖なるカバラ、ウェストコット訳の形成の書浄化された炎が団員らによって読まれていたと考えられる。
 注意までにヴェールを脱いだカバラを魔術書と見るのはまったくの間違いである。

 さて、この訳書の2、3の欠点を一購読者の視点から述べてみよう。

 まずは凡例が無い。邦訳者は邦訳者解説(p.374)で()がクノール・フォン・ローゼンロート(KVR)の注釈、【】がマサースの注釈であると書いている。しかし、そのような大事なことを後ろで書かれても困る。
 底本について、どの版、あるいはどの出版社を使用したのか記述を欠いている。
 また、書名や特殊な用語といった原文でイタリック体で書かれていると思う箇所に【】を使って大変に読みにくい。序説ではこれが顕著である。
 魔術書で≪≫や<>を連発するのは、洋書が「特殊な用語法だよ」との意味でイタリックを多用する傾向があるので、しょうがない面がある(ファクシミリ版でない場合は改訂者がもともとイタリックでないところをカバラ用語だからと親切心でイタリックにする場合さえある。厳密な態度といえば聞こえは良いが非常に読みにくい)。しかし、明らかに書名と思われるものには『』の使用や、明らかに専門用語であり誤解されないものには最初だけ【】で囲むとか、【】でなく太字の使用などで読みやすさに配慮がほしかった。

 以上が欠点であるが、レイアウトや簡単な凡例の付け忘れ(?)など内容面の欠点ではないことに、注意してほしい。
 たかが魔術書に何を細かいことを、という方も多いと思う。しかし、ゾハールの曾孫訳とは言え伝統的カバラ原典の本邦初の本格的翻訳である。魔術という狭い範囲でなく、広く注目されてしかるべき文献なので、凡例を12ページの白紙のところに四行ほど書いておくなど簡単な点をしていないのは、全体としてだらしない印象を与えるので大変残念と言える。
 なお、訳者判田格氏(1964‐、広島県呉市出身)は処女出版との事なので出版社サイドの問題であろう。

 次に、この本の良い点であるが、付録として訳者の小説風マサース伝記が載っているのは好ましいと考える人も多いだろう。また、訳者のマサースの一生を見れば「黄金の夜明け」団(「アルファ・エト・オメガ」団含まず)はごく一部との指摘も今更ながら気付かされる指摘である(ただ、良く考えるとマサースに焦点を当て過ぎており、魔術に偏り過ぎかもしれない)。
 さらにラテン語文も翻訳してくれたのはもちろん大変ありがたい。加えてゾハールの部分訳の箇所では「【ポピュラーな表現技巧】」を導入せず「たんなる全訳」(p.376)にとどまった点も非常に高く評価できる。
 しかしなによりも、邦訳して出版してくれたそのこと自体が何よりも一読者として翻訳者・出版社に対して感謝したい。この本が日本語で読めるそれ自体が何よりもこの本の良い点である。

 最後に簡単な解説だが、本書はゾハールの一部をラテン語訳したKVRの裸のカバラをマサースが更に一部を英訳したヴェールを脱いだカバラの全訳である。
 KVRの裸のカバラ(1677‐1684)についてはIOSのHPで秋端氏による目次を付した書評がある参考にされたし。ショーレム(後掲書)によるとKVRはかなりヘブライ語に通じており厳密な訳語の対照でラテン語訳にしているので、孫訳のマサースに意訳が混入しなければ、邦訳者が「たんなる全訳」にした事により、曽祖父であるゾハールの雰囲気を感じることが出来るだろう。
 なお前述浄化された炎裸のカバラの一部分を編集し訳したものである(以前紹介した錬金術とカバラに詳しいが、ショーレムはユダヤ起源に懐疑的)。

コピー&ペーストし忘れ。
 ヴェールを脱いだカバラは基本的にゾハールの訳書で、ゾハールはカバラの原典です。
 そのことから、注釈など読まずに本文の部分のみを読みたい、読むべきだという方が当然いられると思います。
 ごもっともな見識だと思います。
 しかし、ヴェールを脱いだカバラではKVRやマサースの注釈(特にKVRの注釈)が基本的に本文に組み込まれ、また字の大きさも、ほぼ同じの様にみえる。
 そのことから、本文のみをまず読みたいというニーズには余り適さない本ですので注意してください。
 なお、原文からの対訳は、英語では部分訳が、フランス語では全体訳があると聞いています。
 また、それ以外の方もKVRの注釈に付いては()し忘れの箇所も探せばあると思います。なんか変だなと思ったら後日チェックするためにしるしを付けるか日記にでも書いておきましょう。
 英語版を買ったときの楽しみ(?)になります。

(3) 目次

 はしがき  モイナ・マグレガー・メイザース
 序説  S. L. マグレガー・メイザース
 隠された神秘の書 【光輝の書】部分訳
 大聖集会 【光輝の書】部分訳
 小聖集会 【光輝の書】部分訳
 さくいん
 邦訳者解説
 マクレガー・メイザース・ストーリー 〜栄光の魔法騎士〜
以上
(初出:02/01/25,No.934 )



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作成者: TRK
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