鏡リュウジ
 タロット こころの図像学
 河出書房新社、2002


(2)コメント

 著者鏡リュウジ(1968-)については、私より詳しい人は多いので多言は不要だろう。心理占星学研究者、訳者として、エッセイスト(?)として女性を中心に人気があると噂の方である。

 本書は『鳩よ!』(マガジンハウス)2000年6月号-2001年5月号掲載の「タロットの図像学」を加筆、訂正したものである。残念ながら『鳩よ!』を読んだ事はない。

 内容は、ヴィスコンスティ・スフォルザ版、マルセーユ版、ウェイト版の3種類のタロットをメインにカードを二枚毎解説する。恐らく連載の掲載の問題であろう。使用されるスフォルザ版は限定復刻版を使用している。読者の便宜のためカラー写真で22枚を扉画で収録しているのは嬉しい。もっとも、本文でのタロットは図版が小さいのは難点。

 カードの解説についてはニコルズ(2001),S.の『ユングとタロット』と重なる点もある。しかし、近時の文献学的実証的タロット研究を紹介しようとしている点で異なる。
 ところでユングの著作に対する批評として、「どの命題を論文で証明したいのか分からない、興味深いのは、何を証明したいのか分からない証拠として提出される広範に取材した資料だけである」「彼の提供する用語はなんでも入れる事ができる一般的なものであり、それは過去の伝統のある用語と機能等に於いて変わりはなく、伝統的用語の方がかえってよく分類できている」との主張がある。これはユング派に共通して妥当する批判で、ユング派を信奉する人々の著作にも共通する。しかしある命題を明らかにすることを目的とない紹介本では、それでも十分だ。

 本書で鏡氏は文献学的実証的タロット研究の紹介を一つの目的としている。また主要三種類のカードの「イメージの変遷を追いながら、タロットの図像の系譜と、そして、そこから僕たちが読み取れる心の世界を追ってゆきたい」(p.15)とする。
 少なくともその目的は果たしている。

 さてI・IIの内容は、十分に購読に値する。よく纏まっているし、私も知らなかった情報が多く、今後何かで調べる必要が出たとき本書に出てくる書名は参考になると感じた。私はタロット専門の文献は最近手に入れた本を入れて邦書洋書含めて10冊前後しか持っていないが、この本は少なくとも邦書のなかではトップクラスの文献に入れてよい。独創性等ではニコルズに及ばないが、大沼氏の『カモワン・タロット』より情報量は上に位置させてよい(もっともカモワンの独特の理論については大沼氏の記述しかない)。情報のほとんどは鏡氏の独自の研究というより、海外研究情報紹介の側面が多い。しかし、この手の文献は訳書も邦書も出版の可能性は低い。邦語文献として考えると、鏡氏が好きな人も嫌いな人も、極力入手する人があるだろう。値段は2,400円、許容範囲な出費でないかと思う。

(註) 近時の文献的実証的研究については、大沼氏が主宰するマルセイユ・タロットに関するMLで初期のころ少し触れている。

(3)目次

 はじめに 5

I タロットを読む 19
 愚者と奇術師 21
 女教皇と女帝 30
 皇帝と教皇 42
 恋人と戦車 53
 正義と隠者 63
 運命の輪と力 73
 吊られた男と死神 82
 節制と悪魔 92
 塔と星 102
 月と太陽 112
 審判と世界 123

II タロットを発掘する 135

III タロットを使う 195

 あとがき 219
 参考文献 222

以上
(初出:02/07/04,新No.0092)


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作成者: TRK
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