中村廣治郎著
ガザーリーの祈祷論
 イスラム神秘主義における修行

大明堂, S57(1982)


(2)コメント

 本書は著者の学位論文の前半部を訳したもの。
 ガザーリー(1058―1111C.E.)は世界史にも出てくる定冠詞つきのアルガザーリー。ガザーリーはもともとは大セルジューク朝の宰相ニザーム・ル・ムルクが帝都バグダードに設立したニザーミーヤ・マドラサ(ニザーミーヤ学院)の教授で並ぶ者なき最高の正統ウラマー(聖法学者)にして、ニザームのブレインの一人。後に回心して神秘主義の道へ。
 ウラマーのムスリム圏での権威と影響力は、最近の「味の素」の事件参照。

 流石に学位論文がもとなので、註なども充実していて、読み物としても面白い。
 魔術的にはマントラ瞑想や祈りについての精緻な理論や実例の紹介があり考察に役立つ。しかし、集団で行なう所謂スーフィーダンスはガザーリー以後、急速に集団化大衆化したスーフィーで発達したようで、この文献の射程ではない。他方、註を考慮に入れれば神秘主義の簡単な教科書と言い得る。

 古本屋で買っておいて何だが、定価は4,800円。ハードカバーで230ページ弱だから余り売れる本ではないようだ(チラシには2,000円前後の本の広告が多かった)。しかも、買ったのは背文字の金字も鮮やかで一回も読んでないんじゃないかと思われる函付き美本。

 中村博士はイスラム研究の権威なので、この本はある程度の図書館には置いてある可能性大、文系や総合大学の図書館クラスなら置いてあると思います。興味のある方は、どうぞ。
 ズィクルとドゥアーはご要望があれば多少情報を投稿します。


(3)目次


まえがき
序章 ガザーリーの生涯
第一章 神秘修行の一般理論
第一節 問題の所在
第二節 修行の目的
第三節 修行の方法
第二章 ズィクルとドゥアー
 第一節 ズィクルの理論
 第二節 ドゥアーの理論
第三章 ズィクルとドゥアーの実践
第四章 「祈り」としてのズィクルとドゥアー
参考文献
付録
(一) マッキーのウィルド論について
(二) ハイラーの宗教類型論に対する批判をめぐって
(三) ガザーリー研究文献目録
  一 欧文ならびに邦文の部
  二 アラビア語、ペルシア語およびトルコ語の部
索引

(初出:01/07/16, No.660)
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作成者: TRK
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