ジャック・シャイエ. 『魔笛:秘教オペラ』. 高橋英郎、藤井康生訳。白水社。1976。紹介


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 モーツァルトの『魔笛』は彼の最後の大作の一つで、もっとも人気のある彼のオペラの一つである。モーツァルトはこの作品を重視して、「死の床にあってもこの作品に思いをはせ、時計を見ながら、『いま、夜の女王が登場するところだ……』とつぶやいていた」(11-2)との伝説がある。

 本書『魔笛:秘教オペラ』は、副題にあるように、このオペラをフリーメイソン(秘教)的観点を踏まえて解説したものである。邦題では、翻訳時にフリーメイソンの歴史的役割等が本邦においては理解されていなかったため、「秘教」と訳されたが、原題はLa Flute Enchantee: Opera Maconnique. 1968(記号省略)であり、英訳はThe Magic Flute: Masonic Opera. Herbert Weinstock訳. 1971である。Googleなどで、魔笛を調べると、この本の引用は多い。

 モーツァルトとメイソンリーの関係については、講談社新書で吉村正和『フリーメイソン』など数冊の書籍が取り扱っており、そちらで承知している人も多いだろうと思う。モーツァルトは少なくとも≪親方≫であった(83)。本書を読むと、モーツァルトがまったくよい意味でメイソンリーとの関係を持っていたことが分かる。

 さて、『魔笛』であるが、主人公タミーノは設定上東洋の国日本出身である。個人的には「たのもー」をもじっているのかとツボにはまり、親しみを覚える。詳細については、本書や他のモーツァルト関係の書籍に当たって欲しいが、皆さんの注意を喚起する為、作品分析のところの目次を比較的丁寧に引用しておいた。参考にして欲しい。
 秘教オペラの解説では、主要4人・2カップルの対して検討し、「婚姻の秘儀」、「火と水(水と火)の秘儀」、などにも、かなり文章をさいている。それらでは実際のメイソンリーの儀式などを引用して、メイソンリーの儀式についても知識を得ることが可能だ。私は、入手前後にタロットのKey6をStudy(瞑想・文献調べ)していたので、トピックスが良く重なり、とても興奮した。

 著者Jacques Chailleyはメイソンではないが、音楽の専門家であり、且つメイソンの豊富な資料に基づいて展開をしており面白い。私も音楽の詳しい所はからっきしですが、著者が一般人にも楽しめるように書いており、ヘルメス学、殊にフリーメーソン風味の儀式解釈に興味を覚える人には最適の邦語の入門書ではないだろうか。位階儀式研究の基礎を作るためにも、入手され一読される事を強く薦める。新装版も出ており入手し易い。

 但し、値段が高めなので、私のように古本屋でGetするか、図書館に購入して「いただく」のがベストだと思う。私は古本屋で初版第2刷(1978)を700円(税抜き)で買いました。

なお、本コメントについてはオルフェオ=薔薇園の人さんの管理するBBS<http://cgi16.plala.or.jp/Rosarium/bbs/type-a.cgi>に、私が2003/04/09(Wed)より投稿した物を一部流用している。興味のある方はそちらも参照してください。

最後に、魔笛全般に関して:

音源: CDなどについては、一般のCDショップやCDを取り扱っている古本屋などで比較的簡単に目にする事ができるので、直接当たって欲しい。
台本: 本書を見ると、モーツァルトはセリフを重視していた。そこで台本を入手したくなるのは人情である。台本については、『モーツァルト 魔笛』.荒井秀直訳. オペラ対訳ライブラリー-音楽之友社.2000.が入手できる。1,200円と薄い(127pp)わりには高いと、ちょっと思いますが相場といえば相場な値段でしょうか。興味のある方は入手するとよいでしょう。この本のよいところは、ノーカットである点です。学術的な資料の正確さなどについては、私の能力を超えるのでコメントできない。より良質で、安い物があれば教えて欲しい。
映像: 公演以外にも記録も各種メディアで売っているそうですが、どちらもいまのところチェックしていません。

目次

第一部 これまでの経過
第一章 周知のこと 10
第二章 伝説と誤解 14
第三章 台本――作者は一人か四人か? 19
第四章 台本改作の伝説 30
第五章 台本の出所 39
第六章 台本の変転の歴史 49
第七章 モーツァルトとジングシュピール 62
第八章 一八世紀におけるヴィ−ンのフリーメイスン結社 69
第九章 モーツァルトとフリーメイスン結社 81
第十章 『魔笛』にみられるフリーメイスン結社とフェミニズム

第二部 隠された意味を求めて
第十一章  五つの和音の解釈 98
第十二章  台本の宇宙開闢神話 109
第十三章  主な登場人物――二つの天体と四大元素 116
第十四章  副次的人物 127
第十五章  他の諸シンボル 139
第十六章  通過儀礼の試練 147
 一 最初の気絶(147) 二 試練の許可(150) 三 作業の開始と入信者たちの討議(153) 四 反省の部屋(155) 五 儀礼の試練(157)
第十七章  台本からスコアへ 182

第三部 作品分析
第十八章  概説 193
 第一幕
 一 タミーノの準備(193) 二 パミーナの準備(194) 三 入信式への請願(195)
  第二幕 203
  一 導入部(197) 二 儀式の試練(197) 三 エピローグ(202)
第十九章  序曲 203
第二十章  第一幕 210
 第一景 夜の女王の領地 210
 第二景 ザラストロの城の豪華なエジプト風の部屋 232
 第三景 叡智の神殿の前 240
第二十一章 第二幕 265
 第一景 ザラストロの聖なる林 265
 第二景 反省の部屋 274
 第三景 パミーナに対する大地の試練 282
 第四景 タミーナに対する空気の試練 290
 第五景 ピラミッド内部の地下室 298
 第六景 小さな庭園 309
 第七景 タミーノとパミーナに対する火と水の試練 312
 第八景 再び第六景の庭園 333
 終景 聖なるものに達したカップル 335
第二十二章 結論 335

付録資料 339
註 348
解題 363
訳者あとがき 367
図版解説 vii
参考文献 i

以上
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作成者: TRK
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