著者は1950年代半ばの生まれ。魔術関係者には朝松健氏の奥方と言った方が通りがよいかもしれない。日本魔術史ことにO∴H∴の面々を中心とした側面では貴重な証言者となり得る人物である。著者は1989年の初夏に同人誌関係で知り合った「儀式魔術の実践家にして研究家でもあるA氏」の「私的研究雑誌でドリーン・ヴァリアンテの書物を知」り(p.189)、自分の信仰や新年が魔女のものであることに気付いて「魔女を生きる」事を自覚なさったそうです。人の信念等をカテゴリー化するのに意味があるのか疑問ですし、かなり失礼と思いますがヴァリアンテ派の魔女と言えるかもしれません。
さて、本書であるが先ず松尾未来女史の労作と言ってよいだろう。魔女の歴史ではとかく誇張された解釈をあたかも歴史的真実だと言わんばかりの魔女の著作も多い。その中で筆を抑えて自分の意見と歴史的事実を分けようとする著者のスタンスには好感を感じる。
内容は実践的な部分もあるが、文学、社会運動等を視野に入れた歴史的著述の中で魔女であること、「魔女を生きる」こと、魔女の運動を描き出そうとしている点が多くの類書と比較した場合本書の特徴として挙げられる。
私は個人的感想では記述にもの足りない部分もあるし、正確性に疑問を感じた点もある。母系・女系での血統管理や母権制社会ではせっかく漢字を使っているのだから姓=「女+生」や、古代中国の王族の姓は「姫」等、女偏の文字が使用されたとされている等も触れて欲しかった。しかし、客観的に言って私はこの分野ではかなりマニアックな部類に入るし、分量や本書の想定した読者層等の問題を考えると十分許容範囲である。
日本人によりかかれたものであり、欧米社会の魔女の著作に較べ背景事情の説明がかなりしっかりある。理解しやすい本であるので魔女について興味がある人は学習の初期の間に一読するべき本であろう。
なお、女史のサイトは以下