8⇔11交換理論とループ図


 「黄金の夜明け」のタロット理論(特定のデッキではない)では、8と11の交換理論が有名です。

 この暗号文書に由来する理論は、余りにも有名であるため、周知のものとして、誰もがあえて理由を教えなくなったのか。あるいはそもそも明確な理論的根拠がなかったのか。
 8と11を入れ替えるという結論は知っている。しかし、何故そのような交換理論が生じたのか、知らない。そして、その理由を自分でも考えてみることさえしない人もいるようです。
 そこで、私の理解しているものを、諸兄の参考のために述べてみたいと思います。

 まず、なぜ入れ替えたのか。この入れ替えの問題意識は、極めて単純ではないかと思います。
 まず、アレフから順番に0からタロットの切り札を配属する。そのあと、「黄金の夜明け」団が使用していたYetziratic Attributions(イェツィラー帰属)のヘブライ語と黄道12宮(ゾディアック)の対応に帰属に従って、タロットと12宮の対応をみた場合、Teth=LEO(獅子宮)にKey8:正義が、Lamed=Libra(天秤宮)にKey11:剛毅が配属されることになります。
 正義或いは公正の伝統的な象徴は天秤です。また、剛毅(力)の象徴は百獣の王である獅子が相応しくTarotの図版にも獅子が描かれるのが通常です。この12宮とカードの対応は、いかにも変ではないか?、これが問題意識だったのではないと思います。
 そして、ちょうどこの二つの不自然な帰属を入れ換えると、大変すっきりとする。それならば入れ換えるべきではないか。これがこの問題のすべてではないでしょうか。
 そして、この発想の単純性と解釈論としての整合性・妥当性が、8⇔11交換論が支持される最大の論拠のように思えます。

 では、8と11の入替えにおいては、入替え方には、大きく次の二つが考えられます。

  1.  Tarotの番号自体を入れ替え、生命の木の小径・ヘブル文字に対応させる
  2.  Tarotの番号は入れ替えず、生命の木の小径・ヘブル文字に配属するときだけ入れ替える

 しかし、私の知る限りでは黄金の夜明けの伝統に従う人の間でも、全体のコンセンサスがあるのはイェツィラー帰属に従って文字・小径等に対応させる場合は剛毅と正義を入れ換える、この一点のみで、カードの番号自体を入れ替えるかどうかは、Deckの作成者によって異なるようです。

 カードの番号まで換えるか否かについて、私は、敢えて換える特段の理由はない(註1)が、換えるべきではない特段の理由もない、と思っているので、どちらでも良いと思います。
 教義と印刷されるカードの番号も変えるかは、「別次元の問題」と思うからです。ここでは関係ありませんが、占星術の記号をカードに記すべきかどうかも同様に考えています。
 ただ、経験上、理論や解釈においては、剛毅と正義は二重の数を持っている、このように考えて処理すると上手くいく場合が多いので、「カードの番号を入れ換える、旧来の番号を誤ったものとして破棄する」という意味で番号を入れ替えることには反対です。


 関連して次に、よくあるゾディアックと番号のループの図(Cf.江口・亀井黄金の夜明けp.333、マンタロット、クロウリートートの書P.38)を、ついでに見てみましょう。
 以前、ある日本のサイトで、GD理論をループなしに表現している物がありました。
 しかし、クロウリーの理論を2つのループがある図版(以下、「2ループ図」とする。なお、The Moebius Ribbon(メビウス・リボン)との呼称もある。)で、GD理論を1つのループがある図版(以下、「1ループ図」とする。)で表現するのが普通であるし、1ループ図で説明するべきではないか。
 わたしは、カードの番号を実際に変えるかは理論とは別次元と考えるので、この問題を検討する場合、基点となる図はあくまでも一切の交換論を除いた番号を形式的に当てはめた図にし、そこから各図を展開するべきと思うからです。

 ところで、私はGD理論を使っているで、ループ図の書き方は、実はそれほど重要でないのかもしれません。しかし、クロウリーの理論を採用する人には、ループ図が1ループか2ループかは重要問題でないかと思います。
 やや形式論、観念論かも知れませんが、真・善・美で言えば1ループ(シングル・ループ、GD理論)と2ループ(ダブル・ループ、法の書理論)を比較した場合、どちらが美しいか明らかです。真善美を世界のイデアと考えたとき、説明図の美しさ、それ自体が理論の優秀さの証拠となり得ます。そのため理論的にも、2ループが優れているのではないかと推定力が働くのではないかと思うからです。そして、2ループ図は双魚宮のサインとも似ている。また、わざわざトートの書(死後出版)にループ図が掲載した事からも、クロウリーまたはその弟子らが重視していたと思われるからです。
 私も、クロウリーの人格に対する好悪は別として、きれいな双児型のダブル・ループには魅力を感じます(註2)。

 私の考えが間違っている可能性もあります。しかし、ループ図に限りませんが、普通と違う図表を呈示する場合、図の説明で一言どうして一般的な図と違う表現をしているのか触れる義務はあると思います。

 なお、クロウリーのダブル・ループ図とは、GDのループ図のもう一つ「されどツァダイは星にあらず」の『法の書』による啓示に基づく「皇帝」=ツァダイ=白羊宮=第28番目の小径、「星」=ヘー=宝瓶宮=第15番目の小径の交換のループを加えたものです(註3)(註4)。
 また、ループ図の作り方はゾディアックを楕円状の輪に書き、交換するサインのところをネジって作ります。興味のある方は一度ご自分で書いてみてください。


 (註1)番号を入れ替えると、12宮が配されるカードを取り出して番号順に並べたとき、それが12宮の並びとなるというメリットはある。下部掲載「BOTA派タロット早見表:12単字・黄道十二宮(HVZChTILNSOTzQ)」の表参照。また、Tarot Tableauの図表において、正義のカードがちょうど中央に置かれるというメリットがある。
BOTA派タロット早見表:12単字・黄道十二宮(HVZChTILNSOTzQ)

色彩

音階

ヘブル文字

意味 ゲマトリア 占星術 錬金術
4番 皇帝 Red へー 白羊宮 火性
5番 ハイエロファント Red-Orange C# ヴァウ フック 金牛宮 地性
6番 恋人 Orange ザイン 双子宮 風性
7番 戦車 Orange-Yellow D# ケト 囲い 巨蟹宮 水性
8番 Yellow テト 獅子宮 火性
9番 隠者 Yellow-Green ヨド 開いた手 10 処女宮 地性
11番 正義 Green F# ラメド 牛追い棒 30 天秤宮 風性
13番 Blue-Green ヌン 50 天蠍宮 水性
14番 節制 Blue G# サメク 60 人馬宮 火性
15番 悪魔 Blue-Violet アイン 70 磨羯宮 地性
17番 Violet A# ツァダイ 釣針 90 宝瓶宮 風性
18番 Violet-Red コフ 後頭部 100 双魚宮 水性

(註2)ループ図の作図に際し、ねじれをどの位置に置くかは表現者の自由ですから、ねじれの部分を中心において作図すれば、1ループでも十分に美しい図表が作図できます。

(註3)クロウリーの著作『法の書』第1章の57節の最後"All these old letters of my Book are aright; but Tzaddai is not the Star. This also is secret: my prophet shall reveal it to the wise."の文章のことである。なお、彼がベネットなどの研究を参照して作成した『777』のコラムXIVではこの交換は採用されていない。また、クロウリー派は、皇帝と星の交換に際し、本来の文字とゾディアックの結合を解消し、皇帝を白羊宮と結合させこれをツァダイに、そして星と宝瓶宮をへーに配するので注意が必要である。
 また、クロウリーのトートのこの帰属については、クロウリーのトート・タロットにおいて、8・11及び4・17のタロットの番号(並び)自体の変更がなされていないことには注意が必要である。
 このクロウリーの星と皇帝の交換についての理論的説明の代表的な例としては、Lon Milo Duquette"Understanding Aleister Crowley's Thoth Tarot"(Weiser, 2003)の13章、及び同14章の皇帝の札の解説などが参照に値する。
 個人的には、皇帝以外にも隠者等との交換もあり得るのではないか、という疑問があり、他を排除し、皇帝をもって星と交換したことに対する理由づけを論じて欲しいと思う。

(註4)皇帝をツァダイに、星をへーにする帰属は、SOLの教科書としても有名なガレス・ナイトの"A Practical Guide to Qabalistic Symbolism"でも採用されている。ただし、タロットとゾディアックの関係を変更しなかったクロウリーと異なり、ナイトでは、文字とゾディアックの関係を変更せず、タロットの配属だけを変更している。具体的には、「皇帝=ツァダイ(28の小径)=宝瓶宮」となる。


Tarot Index
作成者: JAGD
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