Tarot、特に大アルカナの並べ方には、いくつかの伝統的な配列がある。下のTarot Tableau(テロー・タブロー、tableau="絵画、活人画、絵画的な描写、劇的場面")と題された図表はその代表的な一つである(図表にある、数字はTarotの各Keyである。例えば、01はkey1「魔術師」を意味する。)。
この図表について、かつて研究会MLにおいて、1‐7‐7‐7方式あるいは1+3x7方式として言及した。その後、この配置を、Bulders of the Adytum(以下「BOTA」とする。)の創設者P. F. Case(以下「PFC」とする。)はTarot Tableau、国際タロット学院を現在率いている大沼忠弘氏はタロット・マンダラ、と呼んでいることを知った。
しかし、いずれも、我が国において、「通称」の地位を得ていない。そこで、当研究会では、ひとまずGolden Dawnに縁があるということで、PFCの用語法に従ってTarot Tableauと呼ぶことにしたい。
ところで、PFCは、代表的著作Tarotにおいて、Tarot Tableauとの名称をしめさず、またその詳細について語っていない。しかし、同書pp.24-26において、Tarotに関するTable, TableauとしてTarot Tableauについて、
Careful study of this tableau will reveal certain harmonies of number which are helpful in greeting at the deeper meaning of the Keys.(p.24)と言及し、その重要性を示唆している。
加えて、PFCは前掲書において、具体的な解釈を述べてはいないが、どのような組み合わせがありうるかを述べている。探究心に富むものならば、BOTAのBuilderでなくても、PFCの言葉をヒントに、Tableauから多くのものを得ることが出きるだろう。
私がPFCを学んだのは、サリー・ニコルズ(1908‐1982)(注1)がこの配列を「旅の地図」と呼び、「この地図にあるようにカードを並べてみると、これから私たちが遭遇するであろう体験が、いかなるものであるかということについて、予告編を提供してくれてる。」(p.26)とした上で、解釈を展開していることを邦訳で知った後であったが、PFCの前掲書の該当部分を読んで多いに感銘を受け、また勇気づけられて、研究した。
その結果、私は、今までどちらかというと、軟弱――以前、ネタに困る魔術師は瞑想とタロットに流れるといった趣旨の主張を読んだことがあり、また<本格的な>カバラこそ正道と勘違いしていた――として忌避していたTarotに魅入られ、さらにTarot研究を一歩進めるために新たな試みを決意したのである。みなさん、団体への帰属に関係なく積極的に探求していただきたい。
注1:サニー・ニコルズ(Sallie Nichols, 1908‐1982)は、アメリカコロラド州生まれ。マサチューセッツのスミス大学及びUCLA大学院で英文学を学び、シェークスピアを講義していたが、のちにタロットの研究を開始し、没するまで長期にわたりロス・アンジェルス・ユング研究所の分析家養成コースにおいて「タロットの象徴」という主題の講義を担当し、それ以外の各地のユング研究所や神智学センターをはじめとしたアメリカ各地で「タロットによるユング心理学への旅」(A Tarot trip to Jung's Psychology)をテーマにセミナーを開いていた。(以上主として、前掲書の著者紹介より)
なお、サニー・ニコルズ(秋山さと子・若山隆良訳)『ユングとタロット:元型の旅』(新思索社、2001)の原著のコピーライトは1980年であり、いわゆる一般書ではあると思うが、ニコルズ晩年の成果、ある種の到達点といえるのではないか。オカルト分野では、筆者が寿命を全うしその人生で到達し得た地点を示す図書はなかなかない。その意味でも、敬意をもって接すべき文献といえよう。
補記:
2014年現在、The Agelsee Wisdom時代のPFCのレッスンが、公刊されている。それらにおいて、本稿で取り扱っているTarot Tableauについて多くを言及しているわけではないが、Tableausに関する体系的瞑想法が詳しく紹介されている。
また、2013年にはMadonna Comptonにより、Tree Work and Tarot Tableaus:A Handbook for Golden Dawn Students based on the Teachings of the Paul Foster Case Tarotという本も上梓されている。もっとも、同書は、本稿で取り扱っているTarot Tableauについてはあまり言及していない。
補記2:
2014年現在、邦書では、この体系について、大沼忠弘(『秘伝カモワン・タロット』、学研、2001)、サニー・ニコルズ(秋山さと子・若山隆良訳『ユングとタロット:元型の旅』、新思索社、2001)、レイチェル・ポラック(『タロットの書:叡智の78の段階』、2014)などに記述があることを確認している。3書中もっとの記述に富んでいるのはニコルズであるが、各列にいかなるものを対応させるかについては、論者によって一定していない。
補記3:
見方について。一番単純な見方あるいは基本的な関係の研究は01-08-15といった縦の組合せ(7組)の研究である。その外、01-11-21、09-11-13など中心軸である11を間に対角をとる方法など、様々な見方が可能である。
重要と思われるのは、この図番における相互の位置に特別の関係性があると仮定して検討することである。
なお、この図番から多くの組合せを抽出することができ、特別な関係に感じられない方もいるかもしれないが、Key0を除いた21枚の組合せは、21×20×19=7980通りであることを考えれば、この図番から導き出せる組合せは特別な関係といってよいだろう。(2016/05/30)
補記4:
ケースに先行し、彼に影響を与えたと思われるオズヴァルド・ヴィルトは、1927年に出版された『中世絵師たちのタロット』(国書刊行会、2019)P.66〜68において、愚者抜きの1〜21について上記タブローと同じ並びを紹介している。これは縦の三行について、上から、能動的・霊→中間的・魂→受動的・体が対応するとしている。(2020/06/03)