何故魔術師は理論を学ぶのか


Q:質問(少し極端にしています)

 自称本格派魔術師の人は理論をうるさく言って嫌いです。
 何故そんな理論研究ばっか口に出すのですか?
 そんなもの関係ないじゃないですか。

A:答え(私見)

 いくつかの答えがあると思います。

 一つは伝統的あるいは古典的な答えです。
 私達の学んでいる魔術は、ヘルメス結社黄金の夜明け団の構成した魔術を基本にしたものです。既述の通り、黄金の夜明けはヘルメス学的側面、薔薇十字的側面、メイソン的側面、錬金術的側面などが綜合されています。そしてこれらは新プラトン主義の影響を受けています。新プラトン主義はその名の通りプラトンの影響下にあります。プラトンはソクラテスの弟子ですが、ピタゴラス教団の教義の影響を強く受けているとされます。そこで古典的な答えをピタゴラス教団に求めてみましょう。

 ここで問題となるピタゴラス教団の教義はブラック(プラトン入門、岩波書店、1992)以下の文章に良くまとまっています。

彼らは魂の輪廻転生ということを信じていた。人間は天上を追われた霊魂であり、われわれの身体(ソーマ)は魂の墓標(セーマ)である。したがって、われわれはこの世の生において、可能なかぎり魂を身体の汚れから解放し、最終的には、魂を完全に清めて転生と輪廻の輪から抜け出すことを目指さなければならない。清めのための最善の方法が、この宇宙の秩序を知るように努めること――とりわけ、この宇宙にあって永遠的であるように見えるもの、例えば天体の運動や数学的な真理などを知るように努めることである。こうした秩序や調和を学ぶことによって、魂もまた秩序立ったものとなり、自余の全宇宙の構成と調和しあったものとなるであろう。(ブラックp130f.)
 これは、黄金の夜明け魔術が依拠するカバラでは肉体は魂の墓標ではないことや、現代では天文学や数学は原則的に魔術師の手を離れ科学者の手のうちにあり研究も心理的領域に限定される傾向があることなど、まったく同様に適用は出来ません。しかし、一つの答えかと思います。
 なお、具体的な黄金の夜明け魔術での理論的な側面はマサースがヴェールを脱いだカバラの序説で述べたカバラの目的を参照してください。Cf.[カバラの主要命題]

 しかし、上記の古典的な答えは現代では、少し世間の目が厳しい。所謂、狂信者、変人、イッチャッタ人、電波の人と見られかねない。
 そこで、最近では心理学用語などを利用して、無意識とコンタクトを取る手段として、無意識の力を導くためのトリガーとして、シンボルや神話・寓話としての理論を学ぶのだと説明がされている様です。

 どちらの見解にしろ魔術師は、魂を秩序化し、統合するために理論を広い意味で学ぶ(瞑想する・体得する)と言ってもよいでしょう。錬金術風に言えば、学ぶという作業を通じて混沌としている無意識=黒い龍から最終的な黄金(霊的啓発)を得るわけです。




(以下は私の完璧な独断と偏見です。もっと詳しい人お願いします)

 ところで後者の見解の場合、フロイトの深層心理学やユングの分析心理学を参照しながらも、理論研究はシンボルを定着させる心を秩序化程度の意味合いで足りるし、複雑な理論よりも簡単な理論(例えば4区分のシンボル)の研究を突っ込んでやるとの傾向が強くなるように思います。また、自分が納得できれば学術的考証はおのずから軽視される。

 GD創設者の時代はそれほどではありませんが、初期のナイトやグレイあたりを見ると、かなりその傾向があるのではないかと思います。イギリスが中心だった時はその傾向が顕著だった。
 しかし、現代では多少ぶり返しがあるようです。アメリカ人は基本的に「原理」主義者ですが、魔術(出版)の中心が米国に移って、学術的考証がかなり幅を利かせてきたように思います。背景にはもちろん周辺の学問的成果が利用できるからですが、アメリカの気質かもしれません。
 もちろん、アメリカでも魔女さんとか違う流派は違うと思いますが、魔術にはまる人にはその傾向があると思います。

 もっとも、理論研究は発見や気付きがあるのである程度やると面白い。やはり趣味や嗜好。基本的に魔術にはまる人はこの嗜好を持っている人が多いのでしょう。

以上
(初出:No.1045、02/04/08)
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作成者: TRK
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