黄金の夜明け魔術全書の紹介

イスラエル・リガルディー編
江口之隆訳
秋端勉責任編集
黄金の夜明け魔術全書(上下巻)
国書刊行会、1993年


 本書はイスラエル・リガルディーによる「黄金の夜明け」団(正確には「暁の星」S∴M∴)の教義と魔術に関する本格的暴露本『黄金の夜明け』全四巻(1937‐1940)の翻訳書である。
 以前にもクロウリーの『エクイノックス』よるGDの儀礼や文書の暴露があったが、『エクイノックス』が事実上の私家出版であったことに比べ、リガルディの暴露本は商業出版としてその販路を経由して広範に販売された点で、『エクイノックス』以上の衝撃があったといわれている。

 この、イスラエル・リガルディーの暴露に関しては、評価は分かれる。
 常識的に言って当時同団に所属しておらずオリジナル文書に触れることが出来なかった者には、本代だけで不知の事項を知る事ができ、概ね好評だった。
 他方、同団あるいは同系統の団体に所属する者にとっては良い迷惑であったであろう。

 なんせ、少なからぬトラブルに巻き込まれながらも細々と楽しんでいた内輪ネタを暴露されたのであるから。
 そして、何とか同団の命脈を保ってきたのにその功績を無視され且つ無能扱いされ、著作権(イギリスではマサースの非常識ゆえに裁判に負けたが)も権威(リガルディー自身は同団のテンプルの三首領でも、責任者ではなかった。しかし、世間では彼が最高権威に事実上なった)も無視されたのではたまったものではない。
 また、何かと評判の悪いアレイスター・クロウリーの元秘書がメンバーになる事を許し、気前良く文書の貸し出しにも応じていたことを考えれば、この仕打ちは恩を仇で返したものと言える。

 私自身はリガルディーの暴露に多大な利益を受けているが正直同団のメンバーには同情を禁じえない。「黄金の夜明け」のオリジナルな主要メンバーが全滅しているのがせめてもの情けである。モイナは1928年に死亡。この出版により、活動を続けていたSMや、マサース夫妻が多くの者の精神的・金銭的支援を受け運営していたAOは、その命脈を絶たれたといわれている。
 近年、広く知られるようになってきたGD分裂以降にマサースらが発展させたAOの教義をみるに、SMの一テンプルの保存した文書類というGDの伝統の「不完全な一部のみの暴露」によって、AOの活動が停止し、その教義が長期間打ち捨てられていたのは、非常に残念であり、これは、リガルディの暴露による負の遺産といえるだろう。


 本邦翻訳は『黄金の夜明け』などの著作で知られたわが国屈指の黄金の夜明け研究家江口之隆氏によるもので、底本として初版本であるAries Pressの四巻本(1937-40)を使用し、江口之隆氏がロンドン大学内のウォーバーク研究所に保管された<黄金の夜明け>団のMSS等を比較参照したとされる。
 ただ、噂によれば、同時期、魔女の家Booksが、上記書籍の最新版であるLlewellyn Publications版Israel Regardie編THE GOLDEN DAWNの第六版(1989)を底本にした出版を計画していた(入手していないが少なくとも一部は出版されている、全巻でたかは調べていない)。それに対抗するため、無理をして早期に出版がなされたとの特殊な事情があったらしい。そのためか、誤字や欠落がやや多い形で出版されたのは残念であった(2刷でだいぶ修正したらしい)。

 また、誤字や欠落以外にも、これを「使う」者として、いささか不満がある。これについては、魔術書の翻訳スタイルがまだ定まっていないためかもしれないが、今後のためにあえて書く。
 まず、下巻に丁寧な訳者解説はあるが、訳注を欠く(例えば、小五芒星儀式のところ等、エーヘーイェイなどとカタカナ表記だけされても読者としては困る。)。次に、テクニカルタームについて原語表記を欠く。ラテン語文等の多くがカタカタ表記であるのに加えてその翻訳を欠く(つまり内容が知りたい場合、原書に当たらなければラテン語の辞書も引けない)、(原語表記があればきにならないのだが)ラテン語単語等の一部につきあえて英語発音での表記を採用している、訳者解説において今後の学習などについての適切な文献紹介などを欠くなど、である。
 以上のように、これを使って研究する立場に立った場合、少なからぬ不満が生じることは否定できない。

 一言でいえば、この翻訳は、学術書、技術書や専門書といった翻訳のスタイルというよりは、訳者解説を除けば、一般書・文学(古典ではないもの)の翻訳のスタイルでなされたものなのかもしれない。
 一般的需要からはこれで十分なのかもしれないが、わざわざ一万円以上を払って本書を購読する読者は、前者のスタイルを望むのではないだろうか。国書刊行会の担当者の方は、ぜひ購読層のニーズを考慮して欲しい。
 私個人としては、『黄金の夜明け全書』は古典であり、魔術研究の基礎文献であるとの立場から、今後、訳注を充実させた、全面的な改訂を希望する者である。


『全書』収録の目次

上巻
 第一巻

  まえがき
  第一知識講義
  第一瞑想
  小五芒星儀式
  柱
  第二知識講義
  第二瞑想
  第三知識講義
  第三瞑想
  第四知識講義
  第四瞑想
  タロー覚書
  追放以前のエデンの園
  一般指導及び魂の浄化に関して
  追放後のエデンの園
  第五知識講義
  図表
  配属付録
  予備門作業
  予備門瞑想
  ≪生命の樹≫に関して
  小宇宙講義
  アデプタス・マイナーに課せられたる責務
  大宇宙の小宇宙
  憑依、トランス、死

 第二巻
  ニオファイト儀式
  ジェレーター儀式
  セオリカス儀式
  プラクティカス儀式
  フィロソファス儀式

  予備門儀式
  アデプタス・マイナー儀式
  春秋分点儀式
  キリスト聖体節

  七側壁
  地下納骨堂の使用方法について
  三首領

下巻
 第三巻
  五芒星儀式
  六芒星儀式
  蓮棒
  薔薇十字儀式
  薔薇十字完全象徴
  魔術剣
  四大元素武器

  Z1 入場者
  ニオファイト位階に於けるエジプトの神々の姿
  四守護神の象徴体系
  Z3 志願者参入の象徴体系
  Z2 ニオファイト位階の魔術の術式

  喚起儀式
  木星の護符聖別儀式
  隠身術儀式
  変身術儀式
  霊的発達儀式
  高次発達儀式
  鎮魂式
  Z応用による占術の準備

 第四巻
  霊視
  ≪スクライング≫及び霊的ヴィジョンの旅について
  タットワ・ヴィジョン
  宇宙のメルクリウスのヴィジョン
  護符
  印形
  テレズマ的姿形
  続・テレズマ的姿形
  護符と印形
  多角形と多芒星
  東洋の学派のタットワ

  地占
  Tの書、カード解説
  タロー占術
  法則一覧
  タロー・トランプ[大誉姉Q・L]
  ≪生命の樹≫立体天球投影法
  タローの四エース

  エノク魔術体系概論
  第一部 諸力の広場の書
  S・R・M・D注釈
  第二部 諸力の広場(実践編)
  第三部 (儀式編)
  第四部 (エノキアン・チェス)

 訳者解説
 訳語/用語解説


『飛翔する巻物−高等魔術秘伝−』
フランシス・キング編 江口之隆訳
まえがき《黄金の夜明け》の新発見 11

序章 27

第一部 想像力と意志力

 《飛翔する巻物》第五巻 57
 《飛翔する巻物》第一巻 65
 《飛翔する巻物》第二巻 66
 《飛翔する巻物》第六巻 71
第二部 星幽体投射

 序説 75
 《飛翔する巻物》第四巻 81
 《飛翔する巻物》第十一巻 86
 《飛翔する巻物》第二十五巻 98
 《飛翔する巻物》第三十巻 105
 《飛翔する巻物》第二十六巻 108
 《飛翔する巻物》第三十三巻 111

第三部 薔薇十字の達人

 《飛翔する巻物》第十六巻 125
 《飛翔する巻物》第十八巻 133
 《飛翔する巻物》第十九巻 138

第四部 人間、神、薔薇十字参入

 《飛翔する巻物》第十五巻 149
 《飛翔する巻物》第十巻 157

第五部 秘教心理学

 序説 171
 《飛翔する巻物》第二十巻 174
 《飛翔する巻物》第二十一巻 180

第六部 ヘルメス的愛と高等魔術

 《飛翔する巻物》第十三巻 193
 《飛翔する巻物》第二十七巻 198

第七部 錬金術

 序説 209
 《飛翔する巻物》第七巻 211

第八部 キリスト教隠秘学

 序説 231
 第一文書 233
 第二文書 236
 死後状態に関する教義若干 239
 キプスの信仰 244
 第二位階 259
 教会に関する教義 272

第九部 ヘルメス叡知と神秘的祈祷

 祈祷の三段階 281
 教会教理多種、第二位階限定 283
 神名に関して 287
 通常祈祷の四状態 292

付録
 付録A 《飛翔する巻物》注釈 305
 付録B エノク魔術とエノク語 310
 付録C 《暁の星》団の《飛翔する巻物》 314
 付録D 行方不明の《飛翔する巻物》 319
 付録E 《飛翔する巻物》カタログ 343

黄金の夜明け秘密教義   秋端勉 347


TRKが手を加えたより細かい目次

『黄金の夜明け魔術全書』

上巻

 

第一巻

  まえがき
  第一知識講義
  第一瞑想
  小五芒星儀式
  柱
  第二知識講義
  第二瞑想
  第三知識講義
  第三瞑想
  第四知識講義
  第四瞑想
  タロー覚書
  追放以前のエデンの園
  一般指導及び魂の浄化に関して
  追放後のエデンの園
  第五知識講義
  図表
  配属付録
  予備門作業
  予備門瞑想
  ≪生命の樹≫に関して
  小宇宙講義
  アデプタス・マイナーに課せられたる責務
  大宇宙の小宇宙
  憑依、トランス、死

 第二巻
  ニオファイト儀式
  ジェレーター儀式
  セオリカス儀式
  プラクティカス儀式
  フィロソファス儀式

  予備門儀式
  アデプタス・マイナー儀式
  春秋分点儀式
  キリスト聖体節

  七側壁
  地下納骨堂の使用方法について
  三首領

下巻
 第三巻
  五芒星儀式
  六芒星儀式
  蓮棒
  薔薇十字儀式
  薔薇十字完全象徴
  魔術剣
  四大元素武器

  Z1 入場者
  ニオファイト位階に於けるエジプトの神々の姿
  四守護神の象徴体系
  Z3 志願者参入の象徴体系
  Z2 ニオファイト位階の魔術の術式

  喚起儀式
  木星の護符聖別儀式
  隠身術儀式
  変身術儀式
  霊的発達儀式
  高次発達儀式
  鎮魂式
  Z応用による占術の準備

 第四巻
  霊視
  ≪スクライング≫及び霊的ヴィジョンの旅について
  タットワ・ヴィジョン
  宇宙のメルクリウスのヴィジョン
  護符
  印形
  テレズマ的姿形
  続・テレズマ的姿形
  護符と印形
  多角形と多芒星
  東洋の学派のタットワ

  地占
  Tの書、カード解説
  タロー占術
  法則一覧
  タロー・トランプ[大誉姉Q・L]
  ≪生命の樹≫立体天球投影法
  タローの四エース

  エノク魔術体系概論
  第一部 諸力の広場の書
  S・R・M・D注釈
  第二部 諸力の広場(実践編)
  第三部 (儀式編)
  第四部 (エノキアン・チェス)

 訳者解説
 訳語/用語解説


『飛翔する巻物−高等魔術秘伝−』

まえがき《黄金の夜明け》の新発見 11

序章 27

第一部 想像力と意志力

 《飛翔する巻物》第五巻 57
 《飛翔する巻物》第一巻 65
 《飛翔する巻物》第二巻 66
 《飛翔する巻物》第六巻 71
第二部 星幽体投射

 序説 75
 《飛翔する巻物》第四巻 81
 《飛翔する巻物》第十一巻 86
 《飛翔する巻物》第二十五巻 98
 《飛翔する巻物》第三十巻 105
 《飛翔する巻物》第二十六巻 108
 《飛翔する巻物》第三十三巻 111

第三部 薔薇十字の達人

 《飛翔する巻物》第十六巻 125
 《飛翔する巻物》第十八巻 133
 《飛翔する巻物》第十九巻 138

第四部 人間、神、薔薇十字参入

 《飛翔する巻物》第十五巻 149
 《飛翔する巻物》第十巻 157

第五部 秘教心理学

 序説 171
 《飛翔する巻物》第二十巻 174
 《飛翔する巻物》第二十一巻 180

第六部 ヘルメス的愛と高等魔術

 《飛翔する巻物》第十三巻 193
 《飛翔する巻物》第二十七巻 198

第七部 錬金術

 序説 209
 《飛翔する巻物》第七巻 211

第八部 キリスト教隠秘学

 序説 231
 第一文書 233
 第二文書 236
 死後状態に関する教義若干 239
 キプスの信仰 244
 第二位階 259
 教会に関する教義 272

第九部 ヘルメス叡知と神秘的祈祷

 祈祷の三段階 281
 教会教理多種、第二位階限定 283
 神名に関して 287
 通常祈祷の四状態 292

付録
 付録A 《飛翔する巻物》注釈 305
 付録B エノク魔術とエノク語 310
 付録C 《暁の星》団の《飛翔する巻物》 314
 付録D 行方不明の《飛翔する巻物》 319
 付録E 《飛翔する巻物》カタログ 343

黄金の夜明け秘密教義   秋端勉 347


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